網膜疾患の治療法
網膜症など、眼底に起こる眼疾患の治療は、抗VEGF薬治療とレーザー抗凝固術の2つが主流となっています。以下、この治療法と適応症について解説していきます。
抗VEGF薬療法(硝子体注射)とは
加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、病的近視(脈絡膜新生血管)といった網膜に起こる疾患の原因は、網膜内の血管の異常や網膜下にできてくる新生血管の増殖・成長が原因です。この血管の成長を促すのが、VEGF(血管内皮増殖因子)という物質であることが分かっています。抗VEGF薬療法は、VEGFを抑える薬を眼内(硝子体内)に注射して、新生血管の成長を抑えたり、血管成分の漏れを抑えたりする治療です。
レーザー光凝固術
網膜の中で病変が起こっている部分にレーザーを当て、焼き固めることで病変の拡大を抑えるものです。一部、正常な網膜組織も犠牲になりますが、病勢を抑え、病気の悪化を防ぐことが目的で行われるものです。ただし、レーザー光凝固術は、黄斑の中心部分(中心窩)周辺の治療はできません。
3割負担 | 約60,000円/月 |
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抗VEGF薬療法の対象疾患について
現在では、下記の4つの疾患に対して適応が可能となっております。
網膜静脈閉塞症の治療
網膜静脈閉塞症とは
網膜にある静脈が詰まることで、網膜がむくんだり(浮腫)、出血したりすることで見えにくくなる病気です。加齢とともに発症しやすくなりますが、血圧が高い方、慢性腎臓病の方は発症のリスクが高いといわれています。網膜中心動脈と網膜中心静脈は視神経内を並行して走っていて、視神経乳頭で枝分かれします。視神経内あるいは網膜を走っている動脈と静脈が交差する部分で動脈硬化が起こると静脈が圧迫されて血流が滞り、血栓ができて静脈が詰まります。静脈が詰まることによって血液や水分が漏れ出て、眼底出血や網膜(黄斑)のむくみ(浮腫)が起きます。
網膜静脈閉塞症の症状
出血やむくみ(浮腫)が、視覚情報の大半を判別する黄斑に及ぶと、急に目がかすんだり視力の低下が起こり、また出血箇所が黒く欠損して見えるようになります。黄斑浮腫が長引くと視力回復は難しくなります。
網膜静脈閉塞症の治療
投薬による治療と外科的な治療があります。投薬による治療では抗VEGF薬療法やステロイド薬が使われます。外科的治療法ではレーザー光凝固術や硝子体手術があります。
抗VEGF薬療法による網膜静脈閉塞症の治療
ルセンティスあるいはアイリーアという薬剤を硝子体内に直接注射します。この薬は出血やむくみ(浮腫)に作用し、これを退縮させます。出血や浮腫を除去することで網膜(黄斑)の状態を改善させ、視力の回復を図ります。
抗VEGF薬療法の治療スケジュール
治療導入期には毎月1回の注射を2か月間続けます。必要に応じて注射を行います。検査は視力検査、眼底検査光干渉断層計(OCT)撮影などを行います。
抗VEGF薬療法の費用
加齢黄斑変性の抗VEGF薬療法は健康保険が適用されます。負担額は以下のようになります。
3割負担(70歳未満) | 約60,000円/月 |
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3割負担(70歳以上) | 上限44,400円/月 |
1割負担 | 上限12,000円/月 |
加齢黄斑変性症の治療
加齢黄斑変性症とは
黄斑とは、ものを見るための中心組織です。神経節細胞がもっとも高密度に密集していて、ものの形、大きさ、色、立体感、距離感など視知覚情報の大半を識別しています。加齢黄斑変性症とは、黄斑がダメージを受け、見えにくくなる病気です。加齢によって徐々に視力が低下してくる萎縮型と、新生血管から出血や滲出液が出ることで黄斑に障害が出る滲出型があります。網膜全体に異常がなくても黄斑に障害があるだけで視力は著しく低下し、放っておくと失明に至ることもあります。
加齢黄斑変性症の症状
黄斑に障害がある場合、単なる視力の低下だけではなく、見ようとしたものが見えない(中心暗点)、ゆがんで見える(変視症)、色が分からない(色覚異常)、視野が欠けるなど様々な症状が現れます。加齢黄斑変性による失明は「社会的失明」と呼ばれています。視野の中心部では視力障害があるものの、まったく光を感じられない状態にはなりません。
抗VEGF薬療法による加齢黄斑変性症の治療
これまで内服薬、経瞳孔温熱療法、黄斑移動術、新生血管抜去術、光線力学的療法など、様々な方法が試されてきました。現在では、最も有効だとされているのが抗VEGF薬療法です。ルセンティスあるいはアイリーアという薬剤を硝子体内に直接注射します。この薬は新生血管に作用し、これを退縮させます。これによって加齢黄斑変性症の原因となる新生血管を除去して、視力の回復を図ります。
抗VEGF薬療法の治療スケジュール
治療導入期には毎月1回の注射を3か月間続けます。3ヵ月後以降は診察や検査を経て医師が判断し、必要に応じて注射を行います。検査は視力検査、眼底検査光干渉断層計(OCT)撮影などを行います。
抗VEGF薬療法の費用
加齢黄斑変性の抗VEGF薬療法は健康保険が適用されます。負担額は以下のようになります。
3割負担(70歳未満) | 約60,000円/月 |
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3割負担(70歳以上) | 上限44,400円/月 |
1割負担 | 上限12,000円/月 |
レーザー光凝固術による加齢黄斑変性症の治療
新生血管が黄斑の中心から離れた場所にある場合には、レーザーで新生血管を焼き固めます。新生血管が黄斑の中心部にある場合には、レーザーによって黄斑も破壊されてしまうため、この治療法は使えません。
3割負担 | 約60,000円/月 |
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糖尿病網膜症の治療
糖尿病網膜症とは
糖尿病網膜症は代表的な糖尿病の合併症のひとつで、日本では成人の失明原因の第1位を占める病気です。血糖値が高い状態が続くと体中の血管に影響が出てきますが、網膜に密集している細い血管はその影響を受けやすく、血管瘤ができたり、詰まったり、破れて出血したりしやすくなります。網膜血管が広範囲にダメージを受けると網膜への酸素供給が滞るため、新しい血管(新生血管)をつくって酸素不足を補おうとします。もろい新生血管から成分が漏れ出したり、破れて出血を起こしたりして、目のかすみや視力の低下などを起こします。進行すると新生血管が網膜や硝子体にまで伸びて、硝子体出血や網膜剥離、緑内障などを引き起こし、急激な視力低下、場合によっては失明に至ります。
糖尿病網膜症の症状
初期の段階ではほとんど自覚症状がありません。進行するにしたがって、見たい部分がかすんで見える(かすみ目)、ゆがんで見える(変視症)、不鮮明に見える(コントラスト感度低下)などの症状が現れます。
糖尿病網膜症の治療
投薬による治療と外科的な治療があります。投薬による治療では抗VEGF薬療法やステロイド薬が使われます。外科的治療法ではレーザー光凝固術や硝子体手術があります。
抗VEGF薬療法による糖尿病網膜症の治療
ルセンティスあるいはアイリーアという薬剤を硝子体内に直接注射します。この薬は新生血管や浮腫(むくみ)に作用し、これを退縮させます。浮腫を除去することで網膜(黄斑)のゆがみを改善させ、視力の回復を図ります。
抗VEGF薬療法の治療スケジュール
治療導入期には毎月1回の注射を2か月間続けます。必要に応じて注射を行います。検査は視力検査、眼底検査光干渉断層計(OCT)撮影などを行います。
抗VEGF薬療法の費用
加齢黄斑変性の抗VEGF薬療法は健康保険が適用されます。負担額は以下のようになります。
3割負担(70歳未満) | 約60,000円/月 |
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3割負担(70歳以上) | 上限44,400円/月 |
1割負担 | 上限12,000円/月 |
レーザー光凝固術による糖尿病網膜症の治療
レーザーを照射して新生血管の発生を予防したり、できてしまった新生血管の除去を行います。出血や白斑(網膜にできたシミ)の治療も行います。網膜症の進行を抑えるのが目的で、治療によって視力が改善されるわけではありません。
3割負担 | 約60,000円/月 |
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病的近視(強度近視)の治療
病的近視(強度近視)とは
近視は角膜から網膜(黄斑の中心窩)までの距離(眼軸)が伸びることで、網膜手前にピントが合ってしまい像がぼやけて見えるものです。眼軸が長くなればなるほど強度の近視となります。
眼軸が引き延ばされると、眼底部の網膜や脈絡膜に大きな負荷がかかり、眼底の一部がぽこんと膨らんでしまったり(後部ぶどう腫)、網膜色素上皮に裂け目ができてしまったりする異常を来します。この状態を病的近視といいます。病的近視になると脈絡膜から新生血管が伸びてきますが、この血管は非常にもろく、血液や水分がそこから漏れたり出血を起こしたりすることで、視力の低下を引き起こします。また、新生血管は視覚情報の大半を判別している黄斑に出ることが多く、視力を大きく損なうことがあります。
病的近視は日本では視覚障害者の原因の第5位を占め、先進諸国の失明原因の上位にランクしている病気です。
病的近視(強度近視)の症状
黄斑に出血やむくみ(浮腫)が起こり、網膜や脈絡膜が薄くなって萎縮する網脈絡膜萎縮、黄斑が剥がれる牽引性黄斑症、中心窩に孔が空いて網膜が網膜色素上皮から剥がれてしまう網膜剥離などが起こります。その結果、視力の低下、ものがゆがんで見える(変視症)、黒いゴミが飛んでいるように見える(飛蚊症)、光が飛んで見える(光視症)、視野の中心が見えなくなる(中心暗点)などの症状が現れます。
病的近視(強度近視)の治療
抗VEGF薬療法が用いられます。ルセンティスあるいはアイリーアという薬剤を硝子体内に直接注射します。この薬は新生血管やむくみ(浮腫)に作用し、これを退縮させます。新生血管や浮腫を除去することで網膜(黄斑)の状態を改善させ、症状の改善を図ります。
抗VEGF薬療法の治療スケジュール
始めに1回の注射を行い、1ヵ月後以降は診察や検査を経て医師が判断し、必要に応じて注射を行います。検査は視力検査、眼底検査光干渉断層計(OCT)撮影などを行います。
抗VEGF薬療法の費用
加齢黄斑変性の抗VEGF薬療法は健康保険が適用されます。負担額は以下のようになります。
3割負担(70歳未満) | 約60,000円/月 |
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3割負担(70歳以上) | 上限44,400円/月 |
1割負担 | 上限12,000円/月 |